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ジャンプからジャンプ+へ。人気漫画はネットから誕生する!

ジャンプからジャンプ+へ。人気漫画はネットから誕生する!

かつて「週刊少年ジャンプ」は単なる娯楽雑誌を超えた文化的装置だった。月曜日の教室で『ドラゴンボール』の最新話が語られ、『SLAM DUNK』のシーンが真似され、『ONE PIECE』の展開が予想された。それは共通体験を生み出す社会的メディアであり、同世代の感情を同期させる強力な機能を持っていた。

しかし現在、この文化的権威は明らかに分散している。新たなスター候補は「ジャンプ+」という、より流動的で予測困難なプラットフォームから立ち上がっているのだ。これは単純な「紙からデジタルへ」の移行ではない。漫画というメディアの本質的変容を示している。

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編集方針に潜む認識論的断絶

週刊少年ジャンプの「友情・努力・勝利」は、戦後日本の成長神話と不可分に結びついていた。集団への帰属意識、努力による上昇移動への信仰、明確な勝敗への欲望——これらは高度成長期からバブル崩壊まで機能した価値体系の反映だった。

対してジャンプ+の作品群を俯瞰すると、そこには現代的な疎外感と諦念が透けて見える。「限界OL霧切ギリ子」「クソ女に幸あれ」といったタイトル自体が、成功への直線的信仰を放棄した世代の心性を表している。これらは「努力すれば報われる」という前提を嘲笑し、むしろ限界状況での生存戦略を描く。

私が注目するのは、この変化が単なる世代交代ではなく、資本主義的競争社会への根本的な認識変化を反映していることだ。ジャンプ+の作品は「勝利」よりも「持続可能性」を、「友情」よりも「相互依存関係」を、「努力」よりも「適応」を重視している。

アルゴリズムが生む新たな物語構造

『チェンソーマン』の本誌から+への移籍は象徴的な出来事だった。藤本タツキの作風は本来、週刊誌の「継続的盛り上がり」よりも「瞬間的衝撃」に特化している。彼の物語は読者を安心させるのではなく、むしろ不安定化させることで印象を刻み込む。

これはSNS時代の情報消費パターンと完全に一致している。Twitter上での「バズ」は持続性よりも強度を重視し、予測可能性よりも意外性を求める。『ダンダダン』のように、一見支離滅裂な設定が瞬間的な話題性を生み、それがロングテール効果で作品全体の評価を押し上げる。

ここで重要なのは、アルゴリズムが物語構造そのものを変質させていることだ。従来の「起承転結」よりも「フック→バイラル要素→記憶定着」という新たな構造が優先されている。これは漫画の本質的変化であり、単なる流行ではない。

「ジャンプらしさ」の脱構築と再構築

興味深いことに、ジャンプ+の作品群は「ジャンプらしさ」を完全に放棄していない。むしろそれを現代的に翻訳している。

私の分析では、これらは「ジャンプらしさ」の表層的継承ではなく、その深層構造の現代的実装だ。「強くなりたい」という根源的欲望は残存しているが、その「強さ」の定義が変化している。物理的暴力や単純な競争ではなく、複雑さに対する適応力、不確実性への耐性、多様性への包容力——これらが新しい「強さ」として設定されている。

プラットフォーム戦略の文化政治学

集英社のジャンプ+戦略は、単なる新規開拓ではなく文化的覇権の維持戦略だ。紙媒体時代の「週刊性」が生み出していた共時的体験が、SNSの「リアルタイム性」によって代替されている。読者は作品を「同時に読む」のではなく「同時に反応する」。

この変化は、出版社の権力構造を根本的に変えている。従来の編集者は「ゲートキーパー」として機能していたが、現在は「キュレーター」的役割に移行している。読者の反応を即座に測定し、バズの兆候を察知し、話題性を持続させる——これらは従来の編集技術とは質的に異なる。

更に重要なのは、この変化が日本の漫画産業全体の国際競争力に直結していることだ。Netflix時代のコンテンツ消費において、「週刊連載」よりも「バイラル性」の方が遥かに重要な要素になっている。

予測される未来——メディアミックス生態系の完成

私の予測では、ジャンプ+の成功は単なる配信プラットフォームの勝利ではない。それは「コンテンツ→バズ→メディアミックス」という新しい産業構造の確立を意味している。

将来的には、漫画作品は最初からアニメ化・ゲーム化・グッズ化を前提とした「IP」として企画される。SNSでの話題性がKPIとなり、単行本売上よりもエンゲージメント率が重視される。そして最終的には、VTuberやライブ配信と連動した「体験型コンテンツ」へと発展していく。

この流れは不可逆的だ。なぜなら、現在10代の読者層にとって「紙の雑誌を買って読む」という行為そのものが既に非日常的体験だからだ。彼らはデジタルネイティブとして、最初からマルチメディア的にコンテンツを消費している。

結論——文化的影響力の新たな源泉

人気漫画がネットから生まれる。しかしより本質的な問いは「ネット発の漫画は従来の漫画と同じ文化的機能を持つのか?」だろう。

私の見解では、答えは「否」だ。SNS時代の漫画は、共通体験を生み出すのではなく、多様な個別体験を並列化させる。それは文化的統合ではなく、文化的分散を促進する。しかしこれは劣化ではない。むしろ、均質化された戦後文化から、多元化された現代文化への必然的推移なのだ。

ジャンプ+の成功は、この文化的変容を最も巧妙に活用した結果だと私は評価している。彼らは「国民的漫画」の終焉を嘆くのではなく、「個人的に刺さる漫画」の可能性を最大化した。これこそが、現代における文化的影響力の真の源泉なのである。

 

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