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カルチャー横断ブログメディア「UZ」

村上春樹の最高傑作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と、晩年にやりなおされた"世界の終り"『街とその不確かな壁』を読み解く

43年越しの「やり直し」が意味するもの 村上春樹という作家のキャリアにおいて、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985年)は疑いなく頂点の一つである。だが、この傑作には40年以上にわたる長い前史がある。1980年、文芸誌「文学界」に発表さ…

ジョン・ホプキンス『Singularity』──音楽が未来を予言するとき

2010年代に大阪で観たトム・ヨーク(レディオヘッド)の「Tomorrow's Modern Boxes」のライブは、いまでも忘れられない。電子音楽と生身の身体が溶け合い、ノイズと静寂が交差し、都市の感覚と自分の内面が一つになったような、あの独特の高揚感。テクノやアン…

村上春樹はどのように創られたか? ——その影響源の謎に迫る

芦屋の家庭の家で育ち、少年時代から膨大な読書を重ねてきた村上春樹という作家は、一九七九年の『風の歌を聴け』によって、まるで何の前触れもなく文学の地平に姿を現したかのように見える。だが、その「無からの創造」に見える鮮烈な登場は、実のところ精…

NARUTO、呪術廻戦にみるAKIRAの残滓

はじめに――少年漫画に刻まれた予言の書 大友克洋の『AKIRA』が1982年に連載を開始してから40年以上が経過した。しかし、この作品が日本の少年漫画に刻んだ傷痕は、いまだに癒えることなく、むしろ時を経るごとに深化している。『NARUTO』『呪術廻戦』という…

なぜ今バナナフィッシュが再評価されているのか? 原作を振り返る

2018年のアニメ化を契機に、吉田秋生の『BANANA FISH』が新たな読者層を獲得し、再び注目を集めている。1985年から1994年にかけて『別冊少女コミック』で連載されたこの作品が、なぜ30年以上の時を経て現代の読者の心を掴んでいるのか。その理由を探るには、…

絶望の光と祝福の光——村上春樹とパウロ・コエーリョが教えてくれたこと

書物との出会いは、人との出会いに近い 書物との出会いとは、人との出会いと近いのかもしれない。ある本が人生に現れるタイミングには、必然としか言いようのない不思議な符合がある。それは偶然の産物ではなく、むしろ読む者の内的状態と外的世界が共鳴する…

細田守『果てしなきスカーレット』──暴力の連鎖を断つ、巨匠の到達点

公開当日、X(Twitter)では酷評が相次いだ細田守監督の最新作『果てしなきスカーレット』。だが、この映画が描き出したものは、かつての細田作品を遥かに超えた、圧倒的な映像体験と思想的深度を持つ作品だった。シェイクスピアの『ハムレット』やダンテの『…

紀里谷和明を「観る」のではない、「浴びる」のだ。――なぜ今、『GOEMON』と『世界の終わりから』が私たちに突き刺さるのか

宇多田ヒカルの元夫・紀里谷和明。彼は嫌われていた。業界に、世間に。 しかし彼の作品そのものは、観るに値する部分があった。彼が『世界の終わりから』で描いたAIとの対話。そして世界の終わり。 彼のキャリアを振り返る上で、どうしても素通りできない二…

『ズートピア』再訪 ― 続編公開前に見つめ直す、多様性とバディの物語構造

12月に『ズートピア2』が公開される。この機会に、2016年に公開された前作『ズートピア』を改めて振り返っておきたい。なぜなら、この作品は単なる動物が擬人化されたディズニー映画ではなく、現代社会が直面する多様性・差別・共生という問題を、精緻に構築…

心に問いを残す、隠れた名作映画4選

なぜこれらの映画は「隠れた」のか 映画史には奇妙な逆説があります。最も深く心に残る作品が、必ずしも興行収入ランキングの上位に並ぶわけではない、という事実です。ここで紹介する4作品—『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』『アイ・オリジンズ』…

川上未映子が描く「痛み」は、村上春樹の「喪失」とどう違うのか?『ヘヴン』と『すべて真夜中の恋人たち』が直視する「身体」と「体系」

「痛み」を直視する作家 現代日本文学において、川上未映子ほど、「痛み」そのものを真正面から描き出すことに誠実な作家がいるだろうか。 彼女の言葉は、オブラートに包まれた比喩や、心地よいロマンティシズムを潔(いさぎよ)しとしない。それは、私たち…

パウロ・コエーリョが描く「魔女」とは何者なのか――自己探求の旅路を照らす光

ブラジルの作家パウロ・コエーリョの作品世界には、不思議な存在たちが数多く登場します。なかでも「魔女」という存在は、彼の作品を理解するうえで極めて重要な鍵となっています。しかし、コエーリョが描く魔女は、私たちが映画やおとぎ話で見るような、黒…

AIと人類補完計画——エヴァンゲリオンが予言したネットワーク時代の終着点

私たちはいま、補完されつつある 「人類補完計画」という言葉を覚えているだろうか。 庵野秀明の『新世紀エヴァンゲリオン』が放送されたのは1995年。奇しくもWindows 95が発売され、インターネットが一般家庭に普及し始めた年だ。あのとき、私たちはまだ知…

AI時代の次にくるのはロボットか? なぜ今、我々は「身体」を持つ機械の夢を見るのか——現代に観るべきロボット映画論

ChatGPTをはじめとする生成AIの爆発的な普及は、世界を根底から揺るぶった。それは「知性」が、もはや人間の専売特許ではなく、デジタル空間において無限に複製可能であり、偏在しうるものだという事実を白日の下に晒した事件であった。我々は、言語や論理、…

破綻の向こう側に見える輝き――細田守という矛盾に満ちた映像作家

「死んでも、生きる。」――冬に挑む新たな挑戦 youtu.be 2025年11月21日、細田守監督の最新作『果てしなきスカーレット』が公開される。「死んでも、生きる。」というキャッチコピーを掲げた本作は、復讐に燃える王女を主人公とした物語で、細田監督自ら「爽…

『攻殻機動隊』とChatGPT時代の「ゴースト」 模倣される自我の臨界点

予言としての1995年 押井守監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)が公開されてから30年が経過した今、私たちはあの映画が描いた世界の入口に立っている。いや、むしろすでに足を踏み入れてしまったと言うべきだろう。草薙素子少佐が水面に映…

紙で読むか?電子で読むか?——メディアの境界で揺れる私たちの読書体験

書店に立ち寄ると、新刊の背表紙が目に飛び込んでくる。手に取れば紙の重みと匂いが、これから始まる物語への期待を膨らませる。一方、電車の中でスマートフォンを取り出せば、数千冊の蔵書が掌の中に収まっている。私たちは今、読書という営みが二つのメデ…

ディストピア飯が教えてくれたこと——美しく描かれる地獄について

大学の学祭に行ってディストピア飯を食べた。思わず食べてみたいと思わせるネーミングだったが、それはやはり美味しくはなかった。本日はそこでディストピアを感じる作品を紹介しようと思う。 その一口を飲み込みながら私が理解したのは、ディストピアという…

村上春樹を"卒業"できない理由

永遠の喪失感が刻む、魂の刻印 村上春樹の小説を読み終えた後、多くの読者が感じるのは奇妙な「未完了感」である。物語は確かに終わっているのに、何かが完結していない。この感覚こそが、読者を村上作品に何度も立ち戻らせる本質的な理由だ。彼の小説は、読…

書くためのデバイス論──人はどの機械で最も自由に言葉を書けるのか?

書くことは、機械との対話である 文筆家にとって、デバイスは単なる道具ではない。それは思考の回路そのものであり、言葉が生まれる産道であり、自己と世界を媒介する身体の延長である。私たちが「何を使って書くか」という問いは、実は「どのように考えるか…

フィッシュマンズ『ロングシーズン』とはなんだったのか

1996年10月25日、日本の音楽シーンに一枚のアルバムが投下された。フィッシュマンズの5thアルバム『LONG SEASON』。約35分間、一曲として構成されたこの作品は、発売から30年近くが経過した現在においても、聴く者を戸惑わせ、魅了し続けている。 このアルバ…

サカナクションが歌い続けるデジタル時代の孤独――つながっているのに、なぜ私たちは一人なのか

「ナイトフィッシングイズグッド」――暗闇の中で釣りをする私たち 山口一郎が「ナイトフィッシングイズグッド」と叫んだあの夜から、私たちはずっとこの暗闇の中で釣りをしている。サカナクションの音楽は、デジタル時代に生きる私たちの孤独を、誰よりも鮮烈…

ウォン・カーウァイ、時間を撮る──『花様年華』『2046』が描いた愛の時制

実現しなかった愛が刻む、永遠の「もうすぐ」 香港の映画監督ウォン・カーウァイほど、時間というものの手触りを映像で表現することに執着した作家はいないだろう。彼の代表作である『花様年華』と『2046』を観るとき、私たちは単に物語を追っているのではな…

『薬屋のひとりごと』が映す、知と権力のジェンダー構造

知性が武器となる場所 日向夏による小説『薬屋のひとりごと』は、中華風の架空帝国を舞台に、薬師見習いの少女・猫猫が後宮で巻き起こる謎を解いていく物語である。一見すると、美しい宮廷を背景にしたミステリーエンターテインメントに思えるこの作品は、し…

伊藤計劃『ハーモニー』——理性が優しさを支配した未来で、人は幸福か

夭逝の天才が遺した予言 伊藤計劃という名を知らない読者も少なくないだろう。二〇〇九年、三十四歳という若さで世を去った作家である。しかし彼が遺した三つの長編——『虐殺器官』『ハーモニー』『屍者の帝国』(円城塔との共著)——は、日本SFの地平を一変さ…

スティーブ・ジョブズの遺産と亡霊──Appleは彼の夢を裏切ったのか、それとも完成させたのか?

スティーブ・ジョブズが2011年に世を去ってから、すでに10年以上の歳月が流れた。彼の死後、Appleは時価総額で世界最大の企業へと成長し、かつてない経済的成功を手にしている。しかし奇妙なことに、Appleが繁栄すればするほど、「ジョブズならこんなことは…

トフラー『第三の波』再読——AI社会を40年前に描いていた男

なぜ今、トフラーなのか ChatGPTが登場し、生成AIが日常に浸透し始めた2025年、私たちは改めて問わなければならない。この変化は本当に突然訪れたものなのか、と。答えは否である。1980年、アルビン・トフラーという未来学者が『第三の波』で描いた社会像は…

映画の真髄!クリストファー・ノーラン監督ベスト5

クリストファー・ノーランは現代映画界における最も独創的な映像作家の一人です。彼の作品は、複雑な時間構造、哲学的な問いかけ、そして圧倒的な映像美によって特徴づけられます。本レビューでは、彼の代表作から厳選した5作品について、その魅力と本質を深…

デヴィッド・リンチという迷宮──悪夢は現実の裏側ではなく、その本質である

夢と現実の境界を破壊し、私たちの世界認識を根底から揺さぶり続けた唯一無二の芸術家 悪夢は逃避先ではなく、現実の本質であるデヴィッド・リンチの映画を観るとき、私たちは何か根源的な不安に直面する。それは単なる恐怖ではなく、この世界そのものが持つ…

Oasis再結成の衝撃 希望はまだ死なない

分断の時代に響く和解の物語 「絶対にあり得ない」と世界が断言した兄弟の和解が、なぜ今、これほどまでに必要とされたのか 2025年7月4日、不可能が現実になった瞬間 二〇二五年七月四日、カーディフのプリンシパリティ・スタジアムに、七万人の息遣いが収束…