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カルチャー横断ブログメディア「UZ」

『東京奇譚集』 村上春樹の文章を味わう 2

偶然の旅人——フィクションが現実を追い越す場所 村上春樹の数多い著作の中で、『東京奇譚集』は長いこと残り続ける作品ではないかという予感がある。それは単なる直感ではなく、この連作短編集を読むたびに強くなる確信に近い。なぜなら、ここには「技術」と…

終わりの後を生きること——『葬送のフリーレン』における時間の二重性

物語はすでに終わっている 『葬送のフリーレン』という作品を前にして、私たちは奇妙な居心地の悪さを覚える。それは物語が面白くないからではない。むしろ逆だ。あまりにも「正しい」場所から始まっているからこそ、私たちは自分がどこに立っているのかわか…

『閃光のハサウェイ キルケーの魔女』 感じるということ——ニュータイプとは何だったのか

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』が2026年1月30日に劇場公開された。2021年の第一作から実に5年。この長い沈黙の後に届けられた第二章は、単なる続編ではない。それは、機動戦士ガンダムという物語が1979年の放送開始から半世紀近くに…

『海辺のカフカ』 村上春樹の文章を味わう1

竜巻のダンス——冒頭に刻まれた物語の予兆 村上春樹を読むとき、私たちはしばしば「物語」に引き込まれるあまり、その「文章」そのものを味わうことを忘れてしまう。このシリーズでは、村上春樹の小説から印象的な一節を取り上げ、その文章の魅力をじっくりと…

『know』野崎まどにみる天才──「すべてを知ること」の果てに何があるのか

野崎まど、あるいは「天才を書く」という執着 野崎まどという作家を語る時、「天才」というワードを避けて通ることはできない。『[映]アムリタ』の最原最早、『パーフェクトフレンド』の理桜、そして『know』の道終・常イチと知ル。彼の作品には、人間の認知…

Apple Watch SE プレビュー② ――日々のワークアウトの記録のためのデバイスとして

身体を動かすことの「可視化」という革命 uz-media.com 前回の記事では、Apple Watch SEを健康管理デバイスとして検証した。心拍数の常時モニタリング、睡眠トラッキング、そして日々の活動量の記録という観点から、このデバイスが私たちの身体への意識をい…

Apple Watch SE プレビュー① ――「健康が心配な人」のためのデバイスとして

懐疑派だった私がApple Watchを手にした理由 正直に告白すれば、私はつい最近までApple Watchに対して懐疑的だった。腕時計に通知が届いて何が嬉しいのか。iPhoneを取り出せば済む話ではないか。高価なガジェットを腕に巻きつけて、それで生活が劇的に変わる…

未完という形式が照らし出す「本当の悲劇」——『NANA』と『昴/MOON』が終われない理由

序論:完結という暴力 物語が終わるとき、そこには必ず「意味の確定」が起こる。登場人物たちの苦しみは「乗り越えられた試練」となり、死は「物語的必然」へと回収され、悲劇は「カタルシス」という名の快楽に変換される。アリストテレスが『詩学』で定義し…

言語が世界を運搬する時代――『1Q84』と生成AIが交差する地点

村上春樹の『1Q84』を「世界がズレる話」として読むことは容易だ。しかし、その本質はもっと深く、もっと不穏な場所にある。『1Q84』は「言語が世界を運搬してしまう話」なのだ。そしていま、生成AI時代の到来によって、この小説が予見していた事態が、比喩…

「書く」という行為は本質的にタイピングに変わるのか?――入院体験から見える身体性の喪失

病院のベッドで言語聴覚士による検査を受けながら、私は奇妙な違和感に襲われた。 「これから簡単な文章を書いていただきます」と告げられ、差し出されたのは紙とペンだった。 その瞬間、私の指は何をすべきか一瞬戸惑った。脳が「書く」という指令を出して…

Suno AIで楽曲制作が簡単に。誰でもアルバム制作

音楽制作の民主化が、ついにここまで来た 音楽を作りたいと思ったことはないだろうか。頭の中にメロディーが浮かんでも、それを形にする術を持たない人は多い。楽器が弾けない、作曲の知識がない、高価な機材を買う余裕がない。そうした理由で、音楽制作を諦…

unnamed memory ライトノベルに書かれた魔法のこと

観測者だけが知っている──複数の時間軸と読者の特権 「unnamed memory」は、一つの奇妙な構造を持っている。物語の終盤、魔女ティナーシャと王太子オスカーは、数々の困難を乗り越えてついに結ばれる。結婚式が執り行われ、二人の幸福が確定したかに見えたそ…

命のぎりぎりのところであなたを助けるApple製品の凄さ

私は2025年12月2日、脳幹出血で倒れた。 脳幹という、人間の生命維持に最も重要な部分からの出血。意識が遠のき、生死の境を彷徨った。救急搬送され、集中治療を受け、そこから約1ヶ月の入院生活が始まった。病室のベッドで天井を見つめながら、私は何度も思…

2026年新春:待望の続編と新作が切り拓く映像表現の地平

年末年始、私たちは何を観るべきか。この問いは単なる娯楽の選択ではなく、2026年という時間を生きる意味への問いかけでもある。今回は、2026年1月30日に公開が決定した『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』、2025年3月7日公開の『ウィキッ…

ニュー・イヤーズ・イヴ再評価 ─ 永遠への祈りとしての大晦日

はじめに──変わらないことへの切実な願い 2025年の年の瀬に『ニュー・イヤーズ・イヴ』(2011)を見て、私は初めてこの映画の本質を理解した。それは「新しい始まり」についての映画ではない。この映画が描いているのは、変わらないことへの切実な願い、「この…

ジョン・レノンにみる、音楽と経済の投影論──矛盾に生きた男の証言

「想像してごらん、所有なんてないと」と歌った男は、ダコタ・ハウスという高級アパートメントに住み、莫大な資産を持つ富豪だった。この矛盾をどう理解すればいいのか。ジョン・レノンという存在は、音楽が心の投影であり、経済が現実の投影であるという二…

RADWIMPS論。野田洋次郎の作詞世界

RADWIMPSのフロントマン・野田洋次郎の作詞は、日本のポップミュージック史において特異な位置を占めている。その根源にあるのは、彼が帰国子女であるという事実だ。幼少期をアメリカで過ごし、英語と日本語の狭間で育った野田の言語感覚は、従来の日本語歌…

手塚治虫「火の鳥」と藤子・F・不二雄「ドラえもん」が時代を超越できた理由——時間と向き合う漫画の想像力

はじめに:なぜ昔の漫画は色褪せないのか 2025年の今、手塚治虫の「火の鳥」を読んでも、藤子・F・不二雄の「ドラえもん」を読んでも、作品が古びていないことに驚かされる。むしろ、現代の私たちが直面している問題——AI、環境破壊、戦争、生命倫理——を予見…

新井英樹『The World Is Mine』は2025年の熊被害を予見していたのか——物語が現実化する時

2025年、熊が「怪物」になった 2025年11月、環境省が発表したクマによる死傷者数は196人に達し、統計開始以来最悪のペースで推移している。死者は12人。これは過去最多だった2023年度の6人を大きく上回る数字だ。しかも被害の質が変わってきている。長野県飯…

「竜とそばかすの姫」再考──現代の野獣とは誰か

美女と野獣の再解釈 2021年に公開された細田守監督作品「竜とそばかすの姫」は、ディズニー映画でも知られる「美女と野獣」を現代に翻案した作品である。高知の田舎に暮らす女子高生・すずが、仮想空間「U」の中で歌姫ベルとなり、謎の存在・竜と出会う。物…

村上春樹の最高傑作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と、晩年にやりなおされた"世界の終り"『街とその不確かな壁』を読み解く

43年越しの「やり直し」が意味するもの 村上春樹という作家のキャリアにおいて、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985年)は疑いなく頂点の一つである。だが、この傑作には40年以上にわたる長い前史がある。1980年、文芸誌「文学界」に発表さ…

ジョン・ホプキンス『Singularity』──音楽が未来を予言するとき

2010年代に大阪で観たトム・ヨーク(レディオヘッド)の「Tomorrow's Modern Boxes」のライブは、いまでも忘れられない。電子音楽と生身の身体が溶け合い、ノイズと静寂が交差し、都市の感覚と自分の内面が一つになったような、あの独特の高揚感。テクノやアン…

村上春樹はどのように創られたか? ——その影響源の謎に迫る

芦屋の家庭の家で育ち、少年時代から膨大な読書を重ねてきた村上春樹という作家は、一九七九年の『風の歌を聴け』によって、まるで何の前触れもなく文学の地平に姿を現したかのように見える。だが、その「無からの創造」に見える鮮烈な登場は、実のところ精…

NARUTO、呪術廻戦にみるAKIRAの残滓

はじめに――少年漫画に刻まれた予言の書 大友克洋の『AKIRA』が1982年に連載を開始してから40年以上が経過した。しかし、この作品が日本の少年漫画に刻んだ傷痕は、いまだに癒えることなく、むしろ時を経るごとに深化している。『NARUTO』『呪術廻戦』という…

なぜ今バナナフィッシュが再評価されているのか? 原作を振り返る

2018年のアニメ化を契機に、吉田秋生の『BANANA FISH』が新たな読者層を獲得し、再び注目を集めている。1985年から1994年にかけて『別冊少女コミック』で連載されたこの作品が、なぜ30年以上の時を経て現代の読者の心を掴んでいるのか。その理由を探るには、…

絶望の光と祝福の光——村上春樹とパウロ・コエーリョが教えてくれたこと

書物との出会いは、人との出会いに近い 書物との出会いとは、人との出会いと近いのかもしれない。ある本が人生に現れるタイミングには、必然としか言いようのない不思議な符合がある。それは偶然の産物ではなく、むしろ読む者の内的状態と外的世界が共鳴する…

細田守『果てしなきスカーレット』──暴力の連鎖を断つ、巨匠の到達点

公開当日、X(Twitter)では酷評が相次いだ細田守監督の最新作『果てしなきスカーレット』。だが、この映画が描き出したものは、かつての細田作品を遥かに超えた、圧倒的な映像体験と思想的深度を持つ作品だった。シェイクスピアの『ハムレット』やダンテの『…

紀里谷和明を「観る」のではない、「浴びる」のだ。――なぜ今、『GOEMON』と『世界の終わりから』が私たちに突き刺さるのか

宇多田ヒカルの元夫・紀里谷和明。彼は嫌われていた。業界に、世間に。 しかし彼の作品そのものは、観るに値する部分があった。彼が『世界の終わりから』で描いたAIとの対話。そして世界の終わり。 彼のキャリアを振り返る上で、どうしても素通りできない二…

『ズートピア』再訪 ― 続編公開前に見つめ直す、多様性とバディの物語構造

12月に『ズートピア2』が公開される。この機会に、2016年に公開された前作『ズートピア』を改めて振り返っておきたい。なぜなら、この作品は単なる動物が擬人化されたディズニー映画ではなく、現代社会が直面する多様性・差別・共生という問題を、精緻に構築…

心に問いを残す、隠れた名作映画4選

なぜこれらの映画は「隠れた」のか 映画史には奇妙な逆説があります。最も深く心に残る作品が、必ずしも興行収入ランキングの上位に並ぶわけではない、という事実です。ここで紹介する4作品—『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』『アイ・オリジンズ』…