書店に立ち寄ると、新刊の背表紙が目に飛び込んでくる。手に取れば紙の重みと匂いが、これから始まる物語への期待を膨らませる。一方、電車の中でスマートフォンを取り出せば、数千冊の蔵書が掌の中に収まっている。私たちは今、読書という営みが二つのメデ…
大学の学祭に行ってディストピア飯を食べた。思わず食べてみたいと思わせるネーミングだったが、それはやはり美味しくはなかった。本日はそこでディストピアを感じる作品を紹介しようと思う。 その一口を飲み込みながら私が理解したのは、ディストピアという…
永遠の喪失感が刻む、魂の刻印 村上春樹の小説を読み終えた後、多くの読者が感じるのは奇妙な「未完了感」である。物語は確かに終わっているのに、何かが完結していない。この感覚こそが、読者を村上作品に何度も立ち戻らせる本質的な理由だ。彼の小説は、読…
書くことは、機械との対話である 文筆家にとって、デバイスは単なる道具ではない。それは思考の回路そのものであり、言葉が生まれる産道であり、自己と世界を媒介する身体の延長である。私たちが「何を使って書くか」という問いは、実は「どのように考えるか…
1996年10月25日、日本の音楽シーンに一枚のアルバムが投下された。フィッシュマンズの5thアルバム『LONG SEASON』。約35分間、一曲として構成されたこの作品は、発売から30年近くが経過した現在においても、聴く者を戸惑わせ、魅了し続けている。 このアルバ…
「ナイトフィッシングイズグッド」――暗闇の中で釣りをする私たち 山口一郎が「ナイトフィッシングイズグッド」と叫んだあの夜から、私たちはずっとこの暗闇の中で釣りをしている。サカナクションの音楽は、デジタル時代に生きる私たちの孤独を、誰よりも鮮烈…
実現しなかった愛が刻む、永遠の「もうすぐ」 香港の映画監督ウォン・カーウァイほど、時間というものの手触りを映像で表現することに執着した作家はいないだろう。彼の代表作である『花様年華』と『2046』を観るとき、私たちは単に物語を追っているのではな…
知性が武器となる場所 日向夏による小説『薬屋のひとりごと』は、中華風の架空帝国を舞台に、薬師見習いの少女・猫猫が後宮で巻き起こる謎を解いていく物語である。一見すると、美しい宮廷を背景にしたミステリーエンターテインメントに思えるこの作品は、し…